きっかけ
アラスカに住みたい

アラスカに住みたい!と思った。

「アラスカに住むんだ」と言うと、相手からは必ず「何でまたアラスカに住みたいの?」って聞かれた。
アラスカに住むことを決心してから、何度も自分の心が揺らいだ。
その度に自分自身で「どうして自分はアラスカへ行きたいの?」と問い続けてきた。

理由は、「アラスカが気持ちよかったから」だろうな。

きっかけは、何か一つが決め手になった訳じゃないけど、一番のはじまりはNHKラジオ講座の「英会話」だった。私は真面目なリスナーじゃなかったんだけど、サボリサボリラジオ講座を聞いていた時期があったのだ。

ある年、「英会話」の舞台がアラスカとハワイだったことがあった。それまで「アラスカ」は私とは全く無縁で特に興味をそそる場所でも無かったけれど、英会話を通してオーロラや氷河の話を聞いてたら、何となく「行ってみたいな」と言う気分になった。

元々海外旅行は好きで、学生の頃からお金がたまると1ヶ月位ぶらぶら外国を観光してまわっていた。だから旅行自体は私にとってそう大して新しい事ではなかったけれど、その頃は数年間海外旅行から遠ざかっていた時期だった。久しぶりの海外旅行だったし、全般的な生活や仕事に対するわだかまりが溜まっていた時期だったから、良い気分転換になるだろうと思ってアラスカ旅行を思い立ったのだ。

「地球の大きさ感じるような旅がしたい。アラスカへ行って氷河とオーロラとパイプラインを見るんだ。」そう思って、往復の格安航空券を購入した。

そして私は、1998年3月、3週間アラスカ旅行をした。

3週間の旅行を終えてアンカレッジを去る時、私は悲しくて涙が止まらなかった。「もっとここにいたい」って思ったのだ。

人にその話をすると「そんなにアラスカって素晴らしい所なのね」って言われた。「アラスカに何がそんなに気に入ったの?」と聞かれたとき、はっきりと説明できなかった。私のアラスカへの思いは、消化できないもやもやとした物、でも自分でこの胸の中にはっきりと存在するものだと言うことは強く感じていた。

自分自身、どうしてそんなにアラスカが気に入ったのだろう、と自問しはじめた。旅行が終わってアラスカを出発する時、どうしてあんなに去りがたく感じたんだろう。

まず思い当たるのは、たまたま旅の途中で知り合った人達。親切な人が多くて言葉が不自由な私にも良くしてくれて、居心地良く感じたことが大きかったと思う。もちろん、アラスカの自然も好きだ。それから、私は大都市よりも小さな町の方がタイプでもある。何より、アラスカのどこの街へ行っても犬の表情が生き生きしていた。私はそれほどいろいろな場所へ行ったことがある訳ではないけれど、アラスカは私の知ってる範囲で、最も犬が幸せそうな場所だった。そういう、私が旅行して触れた事柄を総合して、アラスカを「気持ち良い」と感じたんだと思う。

頭の中で実際どの街に住むのが居心地良いかを考えたとき、私にとって適度に感じる人口密度がアンカレッジだった。アンカレッジなら私にとって小さすぎず大きすぎず、生活をするには丁度良い大きさの街だ。そう思って、「いつかアンカレッジに住みたい」って思った。 

東京に住んでいて、ずっと感じていたことがあった。

「私はもっと笑える人なのにな。それとも、そう思っているのは自分の甘えで、努力が足りないのかな?」
「通勤電車で、新宿の雑踏でストレスを感じる私はおかしいのかな?みんなが適応できていることなのに、大変だと思っている私は適応能力が無いかな?」
「この話をすると、みんな”誰だって大変だと思ってるんだよ”って言うけど、そうやってみんなうまく適応していってるように見えるよなぁ」
「自分がもっと心地よく感じる場所があるんじゃないだろうか」
「でも、逃げたくない。ここは私が生まれ育った場所だし、やっぱり東京は好きだ。みんなうまくやっていってるってことは、きっと私の努力が足りないんだ。」

よく「逃げ」で海外へ行くやつは駄目だ、みたいなことを耳にするけど、自分はそれに当てはまるのかな?とも思った。だとしたら、それは嫌だな・・・とか、いろいろ考えた。

でも、3週間のアラスカ旅行で強烈に感じた「心地よさ」は私を強く突き動かした。

「あそこなら、私は自分の望むように笑っていられる。しかめっつらして疲れてないでいられる。」
「人に優しくしようと思えば、優しくできるゆとりがある」
「あそこにしばらく住んで、気に入った自分でいてみたい」
そう思いはじめたら、考えはどんどん止まらなくなった。

でも、最後の決め手は「人生のタイミング」だったと思う。
ちょうど当時の私の精神状態、健康状態、親の状態などが「やればできる」「やってみよう」と思えるタイミングにあったんだと思う。
(ちなみに私は、アラスカ以上に好きなところがあります。それはイタリア。でもイタリアに惹かれた時は、私の人生のタイミングが合わなかったんだと思っている。いつかまた旅行で行ってみたいけどね)